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リストラ天国 ~失業・解雇から身を守りましょう~
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貴族探偵(集英社文庫) 麻耶雄嵩
収録作は、「ウィーンの森の物語」「トリッチ・トラッチ・ポルカ」「こうもり」「加速度円舞曲」「春の声」 の5篇で、いずれも単独の殺人事件です。
よくわからないですが、なんでも「やんごとなき」貴族の探偵(名刺にも貴族探偵という記載しかない)が殺人事件現場に居合わせ、警察の上から圧力をかけて、現場の捜査に加わり、貴族探偵の使用人達(執事やメイド、自家用車の運転手)が、推理し、犯人を名指しして事件解決に至るというものです。
ちなみに日本ではすでに皇族を除いて貴族や華族という制度はなくなっていますので、あえて貴族というのは皇族ということなのでしょう。
主人公の貴族探偵自身は、「そういうつまらないことは雇っている使用人の仕事」とばかりに、関係者の聞き取りや事件現場の検証などには一切加わりません。
探偵小説の中には、アガサ・クリスティ著の「ミス・マープルシリーズ」のような、自身で調査などはおこなわず、状況を誰かに聞いただけで推理をし、事件を解決する「安楽椅子探偵」というジャンルがありますが、本作の場合は、事件を解決するのは貴族探偵と名乗っている本人ではなく、その探偵の使用人達で、それとも違っていて笑えます。
そうした背景はともかく、事件のトリックについては、それぞれなかなか凝っていて、謎解き探偵小説として十分に楽しめるものでした。
★★☆
◇著者別読書感想(麻耶雄崇)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
ナオミとカナコ(幻冬舎文庫) 奥田英朗
2016年にはフジテレビが同名タイトルでテレビドラマを製作しています。主演の二人は広末涼子と内田有紀で、いかにも心の奥底に闇を抱えた女性という感じです。
内容は、夫からDV被害を受けている女性と、その親友の女性が夫の殺害計画を立て実行します。勤め先の金を横領して失踪したように見せかけますが、そこは素人の犯罪で、様々なミスが後になってから露わになっていきます。
犯行に至るまで、犯行時、犯行後の二人の主人公の心理描写がとにかく重苦しくて、気楽に読むにはつらすぎます。精神的に健全なときに読むことをお勧めします。
著者の小説には直木賞に輝いた「空中ブランコ」(2004年)のようなコミカルなライトなものもあれば、「オリンピックの身代金」(2008年)や「罪の轍」(2019年)のような重苦しいクライムサスペンス小説の2種類があり、この小説は後者になります。
果たして犯罪に手を染めた二人の女性は逃げ切ることができるのか?というストーリーですが、その展開にドキドキさせられます。
★★☆
◇著者別読書感想(奥田英朗)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
日本のこころ(文春文庫) 平岩弓枝
著書の中でも有名なのは、1959年、27歳の時に直木賞を受賞した「鏨師(タガネシ)」や、NHKの朝ドラの原作にもなった「旅路」、30年以上続く「御宿かわせみシリーズ」、テレビドラマになった「肝っ玉かあさんシリーズ」などです。またエッセイも多く残っています。
本著はそのエッセイの中でも最晩年の2019年から2021年頃に「オール讀物」に書かれたものと、1974年に神田明神でおこなわれた講演会から抜粋したもので構成され、亡くなった後の2024年に文庫本として発刊されています。
エッセイの中には、直木賞を受賞する前の駆け出しの頃から、受賞後に怖くて仕事を断ることができずかなり無理をして書きまくった話し、生まれが渋谷区の代々木八幡という神社のひとり娘で、戦争中には疎開したり、近所に友達がいなくて犬を飼ってもらったりしていた子供の頃の話し、文学の師匠、長谷川伸氏に師事した経緯や、そこで先輩の伊東昌輝と知り合って結婚した話しなど興味深く読めました。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
阿修羅のごとく(文春文庫) 向田邦子
著者の小説は、やはりNHKドラマの脚本から著者自身で小説化した「あ・うん」を23年前に読んで以来です。
テレビドラマは、八千草薫、いしだあゆみ、風吹ジュン、加藤治子などの出演で、NHKの土曜ドラマとして4回放送されました。八千草薫48歳、風吹ジュン27歳の頃のドラマです。
その後2003年には森田芳光監督、大竹しのぶ、黒木瞳、深津絵里、深田恭子などの出演で映画化されています。
上に書いたそれぞれ4人の出演者はいずれも主人公の四姉妹役で、この四姉妹の両親、夫、恋人、愛人などが複雑に絡み合いながら人間の愛憎を描いています。
さらに、Netflixで2025年に是枝裕和監督、宮沢りえ、尾野真千子、蒼井優、広瀬すずの出演で連続ドラマが作られています。時代が変わっても、人間の愛憎劇は変わりがないということです。
それにしても、テレビ向けに極端な脚色がしてあり、四姉妹とも心の奥に闇があり、あちらこちらに、妬みや嫉妬、愛人や不倫などてんこ盛りで、世の中の満たされない女性達にきっとウケたことでしょう。
それに対して、登場する男性陣は、いずれも寡黙だったり、気弱で引っ込み思案だったりしてまったく精彩がありません。
その数少ない男性役として、1979年のドラマでは気弱な性格ながら興信所の探偵で、その後、四姉妹の中ではもっとも貞操観念が強い三女の恋人役に、すでにダウン・タウン・ブギウギ・バンドで活躍中の当時33歳の宇崎竜童が出ているのが興味あるところですが、私は見ていません。
★★☆
【関連リンク】
12月後半の読書 「司馬遼太郎」で学ぶ日本史、容疑者、教会堂の殺人、その先の道消える
12月前半の読書 帰還、探偵の流儀、眠り姫(上)(下)
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あけましておめでとうございます。
今年もつまらない話しや感想を書いていくつもりですので、よろしくお願いいたします。
稀少で物好きで変態な読者の方々には感謝しかありません。
ある日、ぷっつりと更新が途絶えた時は、管理人がとうとう逝ったかと思ってくださって結構です。
それでは今年の最初は恒例の読書感想からです。
◇「司馬遼太郎」で学ぶ日本史(NHK出版新書) 磯田道史
◇容疑者(創元推理文庫) ロバート・クレイス
◇教会堂の殺人(講談社文庫) 周木律
◇その先の道に消える(朝日文庫) 中村文則
◇ ◇ ◇
「司馬遼太郎」で学ぶ日本史(NHK出版新書) 磯田道史
司馬遼太郎作品は多岐に渡っていますが、その中でも日本が大きく動いた「戦国時代」、「幕末」、「太平洋戦争以前」の3つの時代が中心となっています。
とりあげられる主な作品は、「戦国時代」は「国盗り物語」(1965-1966年)、「幕末」は「龍馬がゆく」(1963-1966年)や「花神」(1972年)、「太平洋戦争以前」は「坂の上の雲」(1969-1972年)が主に紹介されています。
また「この国のかたち」(1990年-1996年)などのエッセイからも司馬氏の強いメッセージを紹介しています。
通常は歴史学者が、歴史文学(時代小説)について、あれこれ評論したり評価をすることはありません。歴史家は様々な資料を読み解き、史実を追究することが第一義で、小説は読み手が楽しめるような創意工夫をして創作します。
そうした同じ歴史でも目的がまったく違い相容れないところがあるので、こうした歴史学者が小説や歴史小説作家について語るのは珍しいです。
もっとも若手学者が、国民のほとんどが知る歴史小説の大家を語るわけですから大いに持ち上げていて、その真の狙いや思惑を好意的に解釈しています。
私自身は、以前は歴史小説があまり好きではなかったこともあり、司馬遼太郎氏の小説はあまり多くは読んでなく、長編大作を読むのはちょっと厳しいかも知れませんが、もう少し読んでみようと思う内容でした。
★★☆
◇著者別読書感想(磯田道史)
◇著者別読書感想(司馬遼太郎)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
容疑者(創元推理文庫) ロバート・クレイス
本著は上記の私立探偵が主人公のシリーズ作品ではなく、警官とその相棒となる警察犬が主人公で、原題は「Suspect」、出版は2013年(日本語翻訳版は2014年刊)です。
この作品がシリーズ「ロス市警警察犬隊スコット・ジェイムズ&マギー」の第1作目となり、2作目の「約束」(2017年)がすでに出版されています。
パトロール中に襲撃事件に遭遇し、パートナーだった女性警官が死亡、自身も重傷を負った主人公と、アフガニスタンで軍事作戦中にパートナーの兵士を目の前で射殺され自身も傷ついた軍用犬シェパードのマギーという同じようなトラウマを抱える同士、新たなコンビを組むことになります。
今回は、その警邏中に襲撃されて死亡した民間人2名と警官1名の事件を調べる中で、不可解な点が見つかり、様々な妨害に遭いながら、相棒の警察犬とともに事件の解決へ向けて真実に迫っていくという内容です。
パートナーが犬という小説や、犬が大きな役割を果たす小説はいくつもありますが、印象に残っているのは柴田哲孝著の「私立探偵・神山健介シリーズ」で出てくる、主人公の相棒のカイです。
またディーン・R. クーンツも犬の好きな作家で、ちょっと古いですが「ウォッチャーズ」(1987年)、「何ものも恐れるな」(1998年)など、犬が相棒役というか準主役として出てきます。
「私立探偵エルヴィス・コール&ジョー・パイクシリーズ」は、私が好きで全巻読み終えているロバート・B・パーカーの「スペンサーシリーズ」と似ていることから今後読んでいこうと思います。
★★☆
◇著者別読書感想(ロバート・クレイス)
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教会堂の殺人(講談社文庫) 周木律
本作品は、デビュー作から続く、通称「堂シリーズ」と言われている「○○堂の殺人」の5作目で、2015年に単行本、2018年に文庫化されています。
登場人物など共通することから第1作から順に読むのが正しい読み方ですが、途中から読むことになってしまいました。ま、こういうことはよくあります。
ちなみに、デビュー作でシリーズ1作目の「眼球堂の殺人」も購入済みですので、前後しますがそのうち読むつもりです。
内容は、続きものではなく、1話完結のミステリー小説ですので、登場人物の背景などは想像するしかありませんが、特に問題はなく最後まで楽しめました。
ただ、ストーリーにかなり突拍子もない無理なところがあったり、「それはないだろう」と思うところがあり、そうした細かなところは気にせず、おおらかに単純に楽しみながら読むのが良さそうです。
この「堂シリーズ」は著者が大学時代に建築を学んでいたことから、奇想天外な構造物(≒堂)が登場し、そこで殺人事件が発生するというお約束になっているようです。
と言うと、思い出すのが、綾辻行人著の「十角館の殺人」など一連の「館シリーズ」を思い浮かべますが、建物がミステリーやホラーの肝になっている小説は数多くあります。
この「堂シリーズ」は、2019年刊の7作目の「大聖堂の殺人」で終了となったようです。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
その先の道に消える(朝日文庫) 中村文則
たまたま1年半前に読んだ「あなたが消えた夜に」はベテラン刑事と新米のエリート女性刑事のコンビという警察小説でしたので、警察ものは今回が2作品目ということになります。
第1部と第2部に分かれていて、第1部と第2部で主人公というか語り手が違います。
あまり縁がなかったというかほとんどの人には縁がないでしょうけど、緊縛師というか女性を縄で縛るという極端なSM趣味の話が展開されていきます。
緊縛やSMと言えば唯一知っているのは「花と蛇」の作者、団鬼六氏の名前ですが、団氏は作家やプロデューサーであって緊縛師ではないのですね。調べてわかりました。
緊縛は海外ではアーチストという位置づけですが、日本ではその成り立ちや江戸時代の浮世絵からしてなにか陰湿で特殊なエロチックな趣味の世界みたいな印象です。
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そうした緊縛師のひとりが殺され、捜査していた刑事が、その深遠な世界にはまっていくことになります。
第2部ではトラウマを抱えた別の刑事が謎解きをしていくという流れです。
非日常が味わえますが、どうにもそうした趣味の世界が理解しがたい凡人なので、どうしてそうなるの?という疑問だらけになってしまいました。
またこの作品に限らず、警察もので刑事が単独で聞き込みや調査をおこなうことはイレギュラーだと思いますが、物語の都合上、そういうケースが多く見られるのがリアリティさに影を落としています。
★★☆
◇著者別読書感想(中村文則)
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帰還(文春文庫) 堂場瞬一
というのも著者の小説ではシリーズものが多く、その中でも初期の「刑事・鳴沢了シリーズ」は外伝以外、すべて購入して読みました。
「刑事・鳴沢了シリーズ」はとても面白かったのですが、その後のシリーズ「警視庁失踪課・高城賢吾シリーズ」は、一部だけ読むに留まっています。
とにかく多作な作家さんで、次々と新作が出てくるので、少々飽きてきたのと、できるだけ多様な作品を読みたい派なので、しばらく(15年ほど)ご無沙汰していました。
元々は読売新聞社で記者をしていた経験がある著者なので、新聞記者の習性や、社内の事情などには明るく、それが小説の中でもよく生かされています。
著者が勤務していた時代から20年以上経っているので、大きく変わっていると思われますが、そこは元同僚や部下達が今では偉くなっているでしょうから話を聞いて調べることも容易でしょう。それだけ新聞社の様々な事情は真に迫っていて、そこまで詳細に書くか?と思うほどでした。
全国紙の社員なら、30年前までなら銀行や総合商社に劣らず高給&好待遇だったと思いますが、現在では衰退産業のひとつで、いろいろ厳しいようです。
内容は、30年前に同期として入社し、当時同じ支局に配属された4名のうちのひとりが、四日市支局で水死する事故で亡くなります。
その事故に疑問を感じ、またどうして四日市支局へ配属希望を出したのか?など不自然な行動を本来の仕事とは関係がない記者が調べていくというものです。
久しぶりに読んだ著者の作品ですが、持ち前の切れ味は今でも健在で、とても面白く読めました。
★★☆
◇著者別読書感想(堂場瞬一)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
探偵の流儀(光文社文庫) 福田栄一
東海地区の30万人都市にある探偵事務所が舞台で、所長以下、2名の探偵と1名の事務員(バイト)だけという零細事務所で、失踪人探しや迷い犬の探索などなんでも引き受ける地元密着の探偵事務所です。
ある女性の行動調査中に所長が階段から転落し意識不明の重傷を負います。仕事の多くは所長の人間関係で受注しているので、所長がいなくなると探偵事務所の存続が危うくなります。
探偵のひとりは元警察官で、あるミスから辞職に追いやられてしまった過去を持っていますが、その時の上司と同僚が、警察を辞めて別の大手調査会社に転職しライバルとなって現れるというややこしい事態になっていきます。
しかしわずか人口30万人の地方都市で、複数の正社員の探偵を抱える個人探偵事務所の経営が成り立つのか?という素朴な疑問もありますが、そこは小説なので。
もうひとりの探偵の過去や意識不明の重傷を負った所長のその後など、謎がそのまま不明のままで、事件は解決し終わりましたので、これは続編がありそうだと思いましたが、解説でもそれに触れてありました。
その続編は2015年に出版された「森笠邸事件 探偵の流儀II」ですが、AmazonではKindle版しか見つかりません。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
眠り姫(上)(下)(ダニエル・キイス文庫) ダニエル・キイス
この作品は、1998年出版の小説で、原題は「Until Death Do us Part」(死が二人を分かつまで:結婚式の誓いで使われる常套句)で、主に精神病と死刑制度、睡眠障害と催眠療法などが主なテーマとなっています。
眠り姫と言うと、ヨーロッパの童話でシャルル・ペローの「眠れる森の美女」やグリム童話の「茨姫」などが思い出されますが、この小説の主人公の女性が若い頃から睡眠障害で、突然どこにいても寝てしまう障害があり、「眠り姫」と呼ばれていることからタイトルは来ています。
サスペンス小説では珍しく、なにが起きたかは最初のほうで出てくるので書いてしまいますが、あるとき主人公の女性が、正気でない時に我が子の娘とそのボーイフレンドを射殺してしまいます。
それを目の当たりにした夫が、真実を隠し、妻を守るため、二人の死体を川に捨て、拳銃に自分の指紋を付けて川のそばに埋めます。
警察の捜査で、夫が殺人犯として裁判で有罪となり死刑が確定しますが、同時に精神的に不安定でそのような場合に死刑が執行できるのかどうか問題になってきます。
もうひとりの主人公、精神科医の女性が睡眠暗示を駆使し、死刑囚の精神病を改善しようとしますが、、、
実は一般的に知られている童話の「眠れる森の美女」はハッピーエンドに変えられていますが、元の話は睡眠中のレイプなどとてつもなく残酷な内容です。それもモチーフとして使われています。
割と分厚い文庫で上下巻ありますが、登場人物は少ない上に、文字は大きく読みやすく、前半をしっかり読めば、後半はその半分の時間でサクッと読めます。
★★☆
◇著者別読書感想(ダニエル・キイス)
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クロイドン発12時30分(創元推理文庫) F・W・クロフツ
この時代、シャーロック・ホームズシリーズのような奇想天外な推理小説が多い中、リアリズムに徹した推理小説で有名です。
この小説は1934年に出版され、原題は「The 12.30 from Croydon」で邦訳タイトルはほぼそのまま直訳です。
意味は、物語の序盤に、ある高齢の富豪が急死しますが、その富豪が亡くなったのがクロイドン発12時30分の飛行機内でした。クロイドンはロンドンから15kmほど南へいった都市で、当時はここに民間飛行場があったようです。
時代背景となった1934年と言えば日本では昭和9年、欧州ではヒトラーやスターリンが幅をきかせ始めますが、英国ではまだ戦争に巻き込まれる予兆はない時代です。
最近では珍しくはないですが、この当時の推理小説としては異例の犯罪者視点で物語が展開していくというスタイルです。
つまり、「誰が犯人だ?」というのが推理小説のキモですが、このスタイルでは「刑事コロンボ」でもお馴染みの犯罪者が犯行を犯す一切を先に見せてから、警察がどうやってアリバイ崩しをしていくかというものです。
主人公は、父親から引き継いだ電機部品工場を経営する独身男性で、不景気になって大きな仕事を失い経営危機に直面しています。
富豪の叔父から巨額の遺産が約束されていましたが、資金がショートするまで数ヶ月というところまで来ていて、また恋人を自分に振り向かせるためにもどうしてもすぐにまとまったお金が必要で、叔父を殺すことを考えます。
練りに練った暗殺方法を考え、完全犯罪を狙い、計画は完璧に成功します。
いったんは病気を気に病んだ自殺とされますが、ロンドンからやってきた警部が多くの謎を解いていきやがて完全犯罪の穴を見つけ崩していきます。
長編小説なので、最後にひねった展開があるかと思いましたが、そうした意外性はなく、犯人の自白がない状況証拠だけで謎を解く推理が披露されます。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
流人道中記(上)(下)(中公文庫) 浅田次郎
江戸を出立し、千住大橋、杉戸、雀宮、佐久山、芦野、須賀川、福島、大河原、仙台国分町、七北田、富谷、有壁、山目、前沢、相去(あいさり)、花巻、盛岡、沼宮内(ぬまくない)、金田一、五戸(ごのへ)、野辺地、浅虫、蓬田(よもぎた)、平舘、三厩(みんまや)まで。
現在のGoogleマップでルートを入れて調べると、距離は767km、徒歩で175時間がかかる長旅です。ところどころで馬を借りて乗ることはあっても、毎日8時間歩いて22日ほどかかる計算になります。
流人は破廉恥罪で切腹を言い渡されたが、あろうことか拒否をしたため、代わりに家を取り潰され蝦夷の松前家へお預かりとなった3200石の大旗本のお殿様。
その雲上人に見える流人を見張り青森まで押送する役人は200石の町奉行所に与力見習いで入ったばかりの婿養子19歳。その二人の珍道中です。
貧しい足軽の次男坊から、2段階上の目付へ幸いな縁で出世した真面目一方の主人公と、妻も子もいるかなり遊び人風の流人となった殿様の道中の会話が中心です。
そう言えば、道中小説は少し前に読んだ同時代の大名行列を主題とした「一路」(2013年)もそれに近いものでした。
◇2017年3月前半の読書と感想、書評(一路)
ただ著者の作品はほとんど読んできたので、話の展開はおおよそ想像がつきます。無理を承知で言えば、押送人の若き目付見習が一皮もふた皮もむけて江戸に帰ってからの活躍、そして大政奉還後に流人が罪を許され江戸に戻ってきて押送人と出会う続編が読みたいです。
★★★
◇著者別読書感想(浅田次郎)
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2035年の世界地図 失われる民主主義、破裂する資本主義(朝日新書)
◇2025年10月後半の読書と感想、書評(人類の終着点 戦争、AI、ヒューマニティの未来)
欧米の識者と言われる人からみた日本や中国、アジアへの理解がこんなものかと思うような軽薄な話しも多くみられますが、それは外部にはそう見えるのだろうと理解するのが良さそうです。
その欧米の識者たちはコロナ禍という事情から講演ではなく、朝日新聞関係者がおこなうオンラインでのインタビューというスタイルなので、キーマンの選択、質問内容、内容の編集など、やや朝日新聞色の付いた内容と思っても良さそうです。
資本主義や民主主義の危機が叫ばれている現代ですが、その危機の度合いも識者によって温度差があるのだなぁということがよくわかりました。
インタビューを受けての日本人同士の対談では、やはり日本から見た景色と、欧米から見た景色の違いが指摘されています。
あと対談の中で、SNSの功罪として、SNSは便利な反面、自分と意見の違う相手をクリックひとつでブロックができますが、リアルな人間社会ではそうした自分と意見が対立する相手とも上手につきあっていかなければなりません。
リアルなコミュニケーションを避けて、メールやSNSばかりに慣れてしまっている若い人が、今後社会に出て、上司や部下を持ち、チームで重責を担うようになってくると、その立場や意見が異なる人とのコミュニケーションに様々な障害がでるのではないかという意見にはもう関係ないからどうでも良いですがなるほどなぁと。
リアルでは例え嫌いな相手でも簡単にブロックできないことがほとんどですから、そういう嫌な相手ともうまくつきあっていくスキルは経験を積んで鍛えていくしかないのは確かです。
★★☆
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
歴史とは靴である(講談社文庫) 磯田道史
高校3年生相手と言うことは、ほとんどが時間に追われた受験生達で、そんな中で年号の暗記はともかく、深い歴史に興味がある生徒は少なそうで、そう考えるとチャレンジングな試みです。
高校生相手なので、難しい内容は封印し、誰でもわかりやすい(それでも高校生には?という言葉が多そうです)内容となっています。
著者が歴史と関わっていくことになる話や、自ら興味を高めていく道筋など、なかなか真似はできそうもない人生の歩き方です。
例えば、岡山出身の著者が、町全体が歴史みたいな京都に行けば楽しいだろうとまずは京都府立大学へ入学し、その大学図書館で歴史関連の本をすべて読み尽くし、次は京都大学の図書館で貸し出してもらおうとすると、京大生やOBでないとダメと言われ、それなら江戸時代の研究をされていて尊敬する先生がいた慶応大学へ入学するなど。
過去に起きた歴史を時間をかけて学ぶのは、今すぐに役が立つわけではなく、人によっては無駄なコスパの悪いこととされがちですが、随筆家の内田百閒が言った「1回覚えて忘れた状態を教養という、最初から触れたことがない人間とでは雲泥のちがい」という言葉を著者は座右の銘にしているとか。
年齢を重ね、様々な経験や読書で得た知識をどんどん忘れてしまっている現状ですが、「そうか、教養なんだ!」と思えば気が楽になってきます。
★★☆
◇著者別読書感想(磯田道史)
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1864
片腕をなくした男(上)(下)(新潮文庫) ブライアン・フリーマントル
14作目の本作から昨年読んだ15作「顔をなくした男」(2009年)、今年なって読んだ16作目「魂をなくした男」(2013年)が連続した三部作セットとなっています。できればこの14作目から順に読むべきでした。
著者のブライアン・フリーマントルは昨年2024年に亡くなったとのことですので、このチャーリー・マフィンシリーズをまとめておきます。順番、邦題、原題、発行年の順です。
| チャーリー・マフィンシリーズ | |||
| 01 | 消されかけた男 | Charlie Muffin | 1977年 |
| 02 | 再び消されかけた男 | Clap Hands,Here Comes Charlie | 1978年 |
| 03 | 呼びだされた男 | The Inscrutable Charlie Muffin | 1979年 |
| 04 | 罠にかけられた男 | Charlie Muffin's Uncle Sam | 1980年 |
| 05 | 追いつめられた男 | Madrigal for Charlie Muffin | 1981年 |
| 06 | 亡命者はモスクワをめざす | Charlie Muffin and Russian Rose | 1985年 |
| 07 | 暗殺者を愛した女 | Charlie Muffin San | 1987年 |
| 08 | 狙撃 | The Run Around | 1988年 |
| 09 | 未訳 | Comrade Charlie | 1989年 |
| 10 | 報復 上・下 | Charlie's Apprentice | 1993年 |
| 11 | 流出 | Charlie's Chance | 1996年 |
| 12 | 待たれていた男 上・下 | Dead Men Living | 2000年 |
| 13 | 城壁に手をかけた男 | King of Many Castles | 2002年 |
| 14 | 片腕をなくした男 上・下 | RED STAR RISING | 2008年 |
| 15 | 顔をなくした男 上・下 | RED STAR Eclipse | 2009年 |
| 16 | 魂をなくした男 上・下 | RED STAR FALLIN | 2013年 |
こうして邦題と原題を並べてみると、直訳はなく、独自の邦題がついています。普通はタイトルには著者の思いが込められているので、これで著者がよく納得したものです。
著者はこのシリーズ作品の他、米露の捜査官がタッグを組むカウリーとダニーロフシリーズや、心理分析官クローディーン・カーターシリーズ、シャーロック・ホームズの続編、ノンフィクションなど豊富な作品を残しています。
本作を含む三部作では、英国のMI5所属のスパイの主人公がロシアでKGBの後を継いだ連邦保安局と丁々発止の戦いというか騙し合いを繰り広げる内容です。
OO7ジェームス・ボンドとは違い、激しい銃撃戦やカーチェイスなどはなく、主人公も内容も地味で、人間味あふれるストーリーが特徴です。
この三部作の初編では、ロシアにある英国大使館の中で殺人事件が発生し、大使館内部の犯行ということで国内の治安維持を担当するMI5の主人公がロシアに派遣され、殺人事件を追うとともに明らかになってくる英国大使館やアメリカCIAなどを巻き込む壮大な陰謀がわかってきます。
そのMI5の主人公には実はロシアの諜報機関に勤務する女性と恋愛関係からその後結婚していて子供までいるというのが、人間くさいところです。
★★☆
◇著者別読書感想(ブライアン・フリーマントル)
∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟ ∟
凍りのくじら(講談社文庫) 辻村深月
「どこでもドア」や「カワイソメダル」、「先取り約束機」など、ドラえもんの秘密道具がそれぞれ章立てに使われていて、小説の中にもそうした道具を模した内容が出てきます。
個人的には、ドラえもんが登場した頃はスポーツに明け暮れていた中学生時代で、そうした漫画を読んだ世代ではなく馴染みがないので、あまりピンときません。
小説では主人公の父親が藤子不二雄が好きで、ドラえもんの漫画が全巻家に置いてあったことから親しみ、生活の中で、そうした「秘密道具があれば!」という場面で思い出します。
主人公は若い女性で、幼児の頃に重病を患い失踪してしまった父親と同じカメラマンになるまでの高校生活を中心に描かれています。
どうもこうした女子高生の人間関係など学校生活を延々と読まされるのは高齢になったオヤジにはキツく退屈でもあります。
タイトルは、主人公がニュースで見た北海道の流氷に囲まれて呼吸ができなくなって死んでしまう鯨のように、息苦しい社会を投影しているものだと思われます。
最後は、映画「シックス・センス」を彷彿させるようなホラー(ファンタジー?)的な内容で、もっとベタな学園モノかと思っていましたので驚きました。
★★☆
◇著者別読書感想(辻村深月)
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ニッポンの闇(新潮新書) 中野信子、デーブ・スペクター
目次は「ガイジンの言葉、脳科学者の言葉」 「ムチャクチャだったテレビ」 「メディアとキュレーション」 「サブ・コンプライアンス」 「多様性の罠」 「日本は本当に同調圧力が強いか」 「勝っちゃったら「すみません」」 「謝るときも「すみません」」 「コメンテーターの明暗」 「文化人枠」 「日本の労働者は立ち上がらない」 「不安遺伝子と日本人」 「カルトの定義」 「日本は無宗教か」 「天皇と権威」 「時間割引率」 「テクノロジーが神になった時代」 「日本式は終わるか」 「ティッピング・ポイント」 「遺伝子の交換は情報の交換から」とかなり多岐に富んでいますが、話の内容は雑談っぽくて薄いです。
外国人からみた「ここが変だよ日本人、日本社会」的な話しと、専門の脳科学で読み解く政治家や宗教に絡め取られる人達など、どこかで聞いたような話がほとんどです。
いっそのこと、両者ともテレビによく出ていることから、テレビの変遷や、旧ジャニーズやフジテレビのスキャンダルに代表されるタブーに深く切り込んでいくとかだったら面白かったかも。
でもそうすると、様々な局から出番を失ってしまう可能性があり、できっこないでしょうけど。
★☆☆
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ワイルドドッグ路地裏の探偵(ハルキ文庫) 鷹樹烏介
著者は1966年東京都生まれで、日大の農獣医学部卒業ということです。作家デビューは「ガーディアン 新宿警察署特殊事案対策課」(2018年刊)で、警察モノが多い作家さんですが、本作は覚えのない不祥事に巻き込まれ刑事を退職に追い込まれた探偵が主人公です。
探偵と言っても正式な届け出をした調査員ではなく、警察がうかつに手を出せない調査や尾行などを、警察同期の刑事から仕事を回してもらっています。
一見すると、退職後は牙を抜かれて落ちぶれたように見えますが、実は退職に追い込まれたきっかけをつくった巨大な相手を油断させるためということです。
今回は、大手新聞社から関連会社へ左遷された男を調べる役目を与えられ、調べているときに拉致されて行方不明となります。
またこうしたエンタメ系ドラマには不可欠な若い女性が相棒として探偵に加わります。これは身内に反社会勢力がいたために警察官採用が見送られた女性で、子供の頃に両親が何者かに殺されたという過去を引きずっています。
探偵の事務所兼住居が浅草にある潰れたラブホテルという設定で、浅草の町並みがところどころに出てきてあの付近に詳しい人(私)には懐かしい思いがします。
もっとも最近は、外国人観光客だらけで、人情や昔の面影はほとんどなくなってしまったでしょうけど。
★★☆
【関連リンク】
10月後半の読書 八甲田山 消された真実、四人組がいた。、人類の終着点 フランシス・フクヤマ、凍原
10月前半の読書 十五少年漂流記、シンセミア(上)(下)、私の流儀、残像に口紅を
9月後半の読書 女のいない男たち、ものごとに動じない人の習慣術、流星の絆、風神雷神(上)(下)
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